【第5回】 「えだまめのまち大館」が香るティータイム

羽二重餅<えだまめ> × 紅茶<キームン>

【第5回】 「えだまめのまち大館」が香るティータイム

山田桂月堂のある秋田県大館市は、えだまめの名産地としても有名です。最近では、えだまめを使ったスイーツが豊富に誕生しており、身近な食品であるえだまめの新たな魅力が、地元特産品のえだまめの可能性をグングンと広げています。
種類も豊富で彩り豊かな羽二重餅にも「えだまめ」を使用したものがあり、えだまめのまち大館の一押し商品のひとつ。さわやかな季節の青さとふくよかさが凝縮された味わいを、羽二重餅の食感で楽しめるのは、なんて幸せなことなのでしょう。

「えだまめ」というとビールのお供の定番ですが、スイーツとして楽しむ場合、どんな飲み物を合わせたらいいのか迷う方も多いかもしれません。でも、このえだまめの羽二重餅を口に含んだときに、私はすぐにある紅茶に思いを馳せていました。それは、中国の「キームン」という紅茶です。

中国というと、ウーロン茶をイメージされる方がほとんどだと思いますが、ウーロン茶、緑茶、紅茶の世界の生産量を比較すると、圧倒的に紅茶が多く、ウーロン茶はわずか数パーセントに過ぎません。紅茶はそれだけ世界中でよく飲まれている飲料なのです。中国の紅茶の生産量も、インドに次いで世界第2位。それなのに、中国の紅茶が私たちにとってポピュラーではない理由としては、生産量の割に輸出量が少ないことや、他の紅茶とブレンドされたりフレーバードティー用として紹介されることが多いため、純粋に「中国産紅茶」として認識できる機会が少ないことが考えられます。

そのような中で、紅茶消費国であるイギリスでも人気があり、紅茶専門店でもときどき見かける中国産紅茶の代表的存在が「キームン」です。安徽省祁門が産地であり、日本では「キーマン」「キーモン」とも表記されることがあります。

茶葉の外観は黒っぽく大きめの茶葉から抽出される水色(スイショク:紅茶液の色のこと)は、深みのある赤い色。立ち上る香りは、やわらかな「スモーキーフレーバー」で、少しいぶしたような感覚のエキゾティックな世界観を持っています。

渋みは少なく、口に含むと、舌の上にしっとりと染み入ってくるようなやさしさと、その中に干し草のような香りがよぎる個性的な部分も併せ持っている紅茶。

お勧めの飲み方は、やはりストレートで。口の中でほんわりと丸まるような味わいを持つキームン紅茶が、エキゾティックな香りとともに、えだまめの風味を最大限に引き出してくれることでしょう。

冒頭でも触れたように、えだまめを使用したスイーツは、ここ大館だけではなく、全国的に広がってきているように感じます。料理にも、和にも洋にも活躍するえだまめ風味の食べ物は、一緒に味わう飲み物によって、その味わいの広がりや方向が変わっていくのも面白いところ。「えだまめ羽二重餅」と「キームン紅茶」、ともに「香り」と「コク」の方向性がすごく似た性質を持っているようにも感じます。だからきっと、それぞれのいい部分を引き出し合えるのかもしれません。それひとつでも十分おいしく味わえるのに、一緒に味わうことによっておいしさの可能性や持ち味が、より膨らんでいく時間・・・何気なく味わうティータイムの中に潜む、ドラマティックな相性です。

斉藤由美(英国紅茶研究家/ライター)

斉藤由美(英国紅茶研究家/ライター)

日本紅茶協会認定ティーインストラクター、ティーアドバイザー。

大学卒業後、ブルックボンド紅茶に勤務。その後、ユニリーバでリプトン紅茶のPRを担当、20年以上にわたり紅茶メーカー勤務の経験を持つ。

これまで多数の紅茶セミナー、講演、テレビ出演、ラジオ出演、雑誌、新聞などでも活躍。現在は秋田県大館市の自宅で紅茶レッスン「イギリス時間、紅茶時間」を主宰するほか、秋田カルチャースクール、ヨークカルチャーセンター弘前で英国紅茶講座を担当している。

主なテレビ出演:「ためしてガッテン」(NHK)、「王様のブランチ」(TBS)他。四冊目の著書「しあわせ紅茶時間」(日本文芸社)を2015年10月に出版、好評発売中。

秋田県大館市在住。


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